広報ふちゅう令和5年1月1日号 新春座談会全編

更新日:2023年01月01日

新春座談会「スポーツの力で府中市を元気に」

集合写真

府中市では、スポーツを地域資源として活用し、地域の賑わいを創出するとともに、世代を問わず誰もがスポーツに親しみ、健康で生き生きとした人生を送ることができるまちの実現を目指しています。

今年の新春座談会は、スポーツに携わりご活躍される皆さんに、スポーツの魅力や地域との関わりなどについてお話を伺いました。

仙田信吾さん

仙田 信吾さん

株式会社サンフレッチェ広島

代表取締役社長

坂本直子さん

坂本 直子さん

アテネオリンピック女子マラソン日本代表

Lazo Running Team 代表

森岡博昭さん

森岡 博昭さん

スフィーダ備後府中FC監督

市長

市長  小野 申人

サンフレッチェ広島 昨シーズンを振り返って

※敬称は省略しています

市長 皆さん、明けましておめでとうございます。まずは、昨年大変素晴らしい成績を残された、サンフレッチェ広島の仙田社長に、昨シーズンを振り返ってのお話を聞かせていただけたらと思います。

仙田 ありがとうございます。先ほど市長におっしゃっていただいたように、私どもは2022年のシーズンで、リーグ戦3位、天皇杯で準優勝、ルヴァンカップで優勝という成績を勝ち取ることができました。

私どもも快挙だと思っておりますが、クラブの経営規模からすると、J1の18クラブの中でも下の方に属します私どものクラブが、これだけの成績を収めることができたのには二つの要因があります。一つは、ミヒャエル・スキッべというドイツから招聘(しょうへい)した監督が、素晴らしいリーダーシップを発揮してくれたこと。それから二つ目は、ホームクラブで育った選手たちの活躍です。実は、トップで試合に出る登録選手の3分の1が、高校生のユースから上がってきた選手なんですね。これはやはりJ1の中でも特筆すべきところであります。ホームグロウンという表現をするんですが、彼らが懸命に命懸けで走り回って、得点を重ねてくれ、それをまた優れたリーダーシップで監督が牽引してくれる。これがいい相乗効果となり、このような成果を上げることができたと思っております。

よくサッカー王国と言われるのが、埼玉と静岡と広島ですが、私どもは歴史からしても、広島が突出してサッカー王国だと思っております。ただ、昨今のJリーグはどのクラブでも降格する可能性があるほどにレベルが拮抗しています。サッカーにはこのような降格制度というものがあるわけですから、何としてもJ1にしがみついていないと、メディアの紹介も少なくなり、いい選手も獲得できない、さらにスポンサーも離れていってしまうので、とにかくJ1を死守するというのが眼目でシーズンに突入していったところです。

また、天皇杯、ルヴァンカップともに地上波で全国放送され、サッカーの躍動感、驚きや感動の大きさを、全国の方に知っていただけたということが、サッカーの底上に通じることとしてよかったと思っております。

実は、Jリーグの中で今年1番のサプライズはサンフレッチェ、あるいはミヒャエル・スキッべ監督だと言われることもあるんですね。期待が小さかったのか、と少しカツンとくることもないことはないんですが、でも、まあそこは甘んじてですね、確かにサプライズだったなと思っております。

市長 天皇杯の悔しい負け方から、中5日でルヴァンカップを迎えられましたが、選手のモチベーション維持などに対して、クラブの社長として気を付けられたことはありましたか。

仙田 正直、天皇杯で負けたときは声の掛けようもないんですよ。延長戦に入り、しかもPKになりましたので、もう選手はくたくたなんですよね。ですので、とにかくまずは、精神的にも肉体的にも休養をさせることですね。ただそこからどう立ち直っていくかというところが問題です。実は天皇杯が日曜日にあり、その週の水曜日には、安芸高田市吉田のサッカー公園で、あえて練習を公開したんですね。一部選手からは、ナーバスになっていたこともあり、なぜこのタイミングでという声も上がりました。しかし、多くの観客に来ていただいて練習を見てもらっていると、ゴールが決まったときなどに拍手されたりしますよね。それで選手もモチベーションが上がっていき、そこから少し立ち直れたんじゃないかという気がします。

もう一つは、これが出会いというか奇跡というか、本当に不思議な話なんですが、サンフレッチェ出身の工藤壮人選手が、ルヴァンカップの前日に亡くなられました。彼の背番号は9番で、ルヴァンカップの試合のアディショナルタイムが9分間。さらに、私どもはこれまで、リーグ戦では2012年、13年、15年と優勝できたんですが、カップ戦からの優勝経験がなく、今回が9度目の挑戦だったんですね。どうもこの9という数字に引っ張られたところがある気がします。工藤選手が亡くなったことを知った朝の選手たちは意気消沈で、これもまた声が掛けられないようなところがあったんですが、工藤選手のために頑張ろう、そういう気持ちもあって一つになりましたね。

市長 つたない言い回しですが、12人目の選手が後押ししてくれたようですね。

仙田 市長はいい表現をしてくださいましたね。

市長 監督の続投も決まり、ぜひ今年は昨年以上の成績を残していただきたいと思いますし、我々もしっかり応援させていただきます。

仙田 頑張ります。応援よろしくお願いします。

仙田社長に花束贈呈

スポーツの魅力

市長 皆さんに、それぞれの分野のスポーツの魅力についてお伺いします。

坂本さん、陸上の魅力というのはどんなところですか。

坂本 このコロナ禍で、マラソン大会はしばらくストップしていましたが、やっと少しずつ再開し始めました。大きいものから小さいものまで、いろんなロードレース大会がありますが、全て無料で見れるんですよね。スタジアムなどでスポーツを観戦する場合はチケットを買うことになりますが、マラソンや駅伝は身近なところで開催されたりするので、ふらっと見に行くことができ、トップ選手の速さを間近で感じることもできます。また、走ることは教えられなくてもできますし、学校の授業やマラソン大会があったりと、皆さんに根付いたスポーツだとも思います。さらに、最近はマラソンブームで、まちおこしにも貢献できるスポーツとしても盛り上がっていて、大会が開催される地域でおいしいごはんを食べるなど、応援に来た人にも付随した楽しみがある、すごく可能性のあるコンテンツだと思います。

市長 坂本さんはトップアスリートとして、オリンピックにも出ておられますが、現役時代は必ずしも楽しいことばかりではなかったと思います。競技生活を振り返ってのお話と、指導者となった今、その経験がどう生かされているのか、お聞かせいただけますか。

坂本 好きで始めたことですが、仕事として何年も続けていると、もちろんしんどいこともありました。走れなくてしんどいときには、所属していた天満屋陸上競技部のスタッフが携わる、市民ランナーや子どもたちを教えるクラブチームにふらっと行ったりしていましたね。日中仕事をしながら夕方に練習をしている市民ランナーの方や、楽しそうに走っている子どもたちを見ていると、それだけですごく元気が出て、走ることを楽しむという自分の原点に戻れるような気がしていました。皆さんと交流することで自分の視野が広がりますし、「今度頑張ってね。」「この前よかったね。」などと声を掛けてもらうと、もっと頑張ろうって思えます。勝つことやタイムを狙って走るだけでなく、純粋にランを楽しんでいる人は、私の心をほぐしてくれる存在でしたね。そんな経験があるので、今は勝負やタイムよりも、楽しく走ってくれたらいいなと思い指導をしています。

市長 マラソンは個人、駅伝はチーム競技だという感覚ですが、何か違いはありますか。

坂本 ありますね。駅伝はたすきを繋いでいくので、責任の重みが違います。高校駅伝や箱根駅伝などもそうですが、チームワークが素晴らしいですよね。でもマラソンは個人競技ですが、監督やトレーナーさん、帯同している後輩などがいるので、チームとして走っているという思いもあります。私は企業チームだったので、優勝を狙っていたときには、毎月ミーティングをするなど、チームとして結束していたと思うし、それはそれで楽しかったですね。

坂本直子さん2

市長 仙田社長はいかがですか。

仙田 一つは、私どもを大きなおむすび型のピラミッドとしますと、J1を戦っているトップチームは頂点にすぎず、それを支える高校生のユース、中学生のジュニアユース、それからジュニア。これらがいわゆるアカデミーという育成のチームなんですが、その下にさらに幅広いスクールがあって、これらを総称してサンフレッチェと言うんですよね。そんな中、最近うちのコーチが、大体6歳までに体幹ができ上がるという話をしていましたが、今成功している選手、例えばゴルフの石川遼選手にしても、野球の有名選手、有名コーチのご子息にしても、小さい頃はサッカーをされていた例が多いです。表現が少し微妙なところかもしれませんが、おそらくサッカーは、手が使えない、世界で一番不自由なスポーツだと思うんですね。体全体でいろんなことをしなければならないので、体幹が鍛えられ、どんなスポーツにも応用できる体づくりができていく、これはサッカーがそもそも持っている素晴らしさだと思います。

もう一つ、私どもは「サッカーを学ぶ」ではなくて「サッカーで学ぶ」をキャッチコピーとしています。人格形成、友達同士の友情、年齢の離れた人との付き合い方、チームワークの形成の仕方など、スポーツを通じてしか学べないことがありますよね。特にサッカーの友情は、一生もんですから。これらもサッカーの大きな魅力だと思っております。

指導・育成

市長 森岡監督は長く女子サッカーチームを指導されていますが、選手育成に非常に熱心で、学生時代には海外に留学し、指導の勉強もされたと伺っています。当時の日本では、おそらく根性論や精神論が先行した指導が多かったのではないかと思うのですが、海外で指導を学ばれて、日本に帰ってこられたときに感じたギャップなどがあればお聞かせください。また、それを今のチームの指導にどう生かしておられるのでしょうか。

森岡 もともとは、指導者以前に選手として、アメリカの大学でプレーしていました。当時の大学の監督は、今ではビッククラブになりましたが、チェルシーというチームのユース出身だった方でした。その監督から本当にたくさんのことを学びましたが、一番の教えは「決断させる」ということですね。当時大学で日本人初のキャプテンをやらせていただいていましたが、最初はやはり日本方式で、練習でも試合でも指示をたくさん出していたんです。監督からはいつも、「全て自分たちで判断させて、それがよかったのか悪かったのかを考えさせろ。決して先に答えを言うな。」と、言われていましたね。これが僕の指導の原点なので、選手時代も指導者となった今も、もう我慢の連続です。言ってしまった方が楽なんですけどね。

市長 海外で学ばれた指導方法を、日本に帰ってからも実践されているんですね。

森岡 はい。日本に帰って来て、最初は地元の小学生を指導していました。まだまだ周りは日本方式の指導が多い中で、相手チームの指導者や保護者からは、「きれい事を言うな。そんな指導でゲームに勝てるのか。勝たなくては意味がない。」と何度も言われましたね。「選手を成長させたいからやっていることで、勝つことは目標だけど目的ではない。」と言い続けましたが、理解してくれる人はほとんどいなかったですね。でも当時、僕の考えを理解して助けてくれた保護者の方もいて、その方たちには今でも頭が上がりません。

市長 女子ならではの難しさもあるのではないかと思いますが。

森岡 そうですね。中学校の男子チームの外部コーチをしていたこともあるのですが、女子の選手は男子の選手と比べて真面目で、僕が手綱を握らないと、どんどん自分を追い込みますね。僕もそうでしたが、男子の選手は、うまくさぼるじゃないですが、どう乗り切るかを考えますね。女子の選手は、どうやり切るかなので、指導しやすい反面、実は気に掛けて、準備やフォローをしてあげないといけないんです。ですので最近思うのは、これからのスポーツはトレーナーがいないと成り立たないということですね。人脈をたどってでも、トレーナーを引き寄せること。選手たちが本当に苦しくなったときに、指導者の力だけでは変えられないことを、このトレーナーによってリカバリーすることができると感じていますね。

森岡博昭さん

坂本 分かります。オリンピックのときのトレーナーさんは女性だったんですが、年齢も近く、同じ関西出身ということもあり、公私共に何でも言える存在でしたね。監督に言えないことも全部言えちゃうみたいな。ずっと走っているだけなので、トレーナーさんに話をして発散することはとても大事でしたね。

市長 サンフレッチェの選手名鑑を見ていても、トレーナーさんの数がすごく多いですよね。

仙田 そうですね。実は昭和50年代頃は、広島東洋カープもトレーナーは2、3人しかいなかったんですが、今は15人います。サンフレッチェも、韓国代表チームのフィジカルトレーナーをやっていた人間が、一昨年まで4年間ついてくれていました。その彼が、手術明けだった佐々木翔選手や、若手の森島司選手などの能力を上げてくれたので、フィジカルトレーナーは大変大事だと思います。

また、私どもは一昨年、サンフレッチェ広島レジーナという、中四国九州では唯一の女子プロサッカーチームを立ち上げましたが、女子は、男子では想像ができないけがの仕方をするんですよね。男女同権というのは当然なんですが、筋肉や体つきは明らかに違うので、やはりケアの仕方が違います。

ところで森岡監督は、女子サッカーの魅力をどうやって発信されていますか。私も最近まで悩んでいて、コピーを考えてみたりもしたんですが。

森岡 よく「サッカー選手の前に紳士たれ」と言うので、選手には「サッカー選手の前に淑女たれ」と言っています。振る舞いは絶対に気を付けなさいと。あと僕は、うちの選手たちが一番かわいいと思っていて、それを選手たちにも伝えています。試合に負けてしまっても、「大丈夫、お前たちの方がキュートだったから。」といつも声を掛けていますね。

坂本 そういう監督いいなあ。女子には大事なことだと思います。

森岡 でも、ただかわいいだけじゃないということが大事ですね。サッカーでもそれ以外のところでも、魅力的な人であってほしいですね。社会に役立つ人になってほしいという思いを込めて、「サッカー選手の前に淑女たれ」と言っています。

仙田 キュートっていい形容詞ですよね。

我々はプロチームで、興行なんですね。男子のサッカーは強ければお客様も増えます。では女子のサッカーの本質的な魅力は何だろうと考えたときに、ゲームを見る立場からすると、バレーボールを参考にすれば面白いだろうと思うんですね。男子バレーは、ブロックで止められたら終わりですよね。昔で言う回転レシーブなんかはできないですから。でも女子バレーは、ラリーのやりとりがものすごく面白いんですよね。だから、女子バレーの方が視聴率も高い。これはサッカーも一緒で、男子のサッカーは早過ぎて、実はプレーがよく分からないんですよ。ところが女子の場合は、ボールを止める能力、それをパスする能力など、一つ一つのテクニカルは男子に負けておらず、むしろ男子より優れている部分があるくらいです。全体的にプレーが見やすいという部分を広めていこうかなと考えています。

森岡 実は僕も、女子バレーは指導の参考にしています。また、うちのチームでは、他のチームでは使いづらい、常に2人がかりでボールを追うという戦術を使っています。運動量が多いので、うちの選手がすごく頑張っているように見えて、保護者も周りもすごく応援してくれるんですよ。女子の選手がスライディングタックルをしたときなんかの姿は、見に来た人はみんな感動されますね。

仙田 スライディングタックルをするのにも芝が必要ですからね。そういう意味では上下町にできる芝生グラウンドに期待したいですよね。

市長 ありがとうございます。先ほど仙田社長からは、ユースから上がった選手たちがJ1で頑張っておられるというお話がありました。若手育成のすごくいいモデルだと思うのですが、どういったところに気を付けて取り組んでおられるのでしょうか。

仙田 直接のお答えにならないかもしれないですが、Jリーグが立ち上がろうとしたときに、他のクラブは、持っている資金を外国の有名選手の獲得など、そういうことに使ったわけですね。しかし私たちの先達、初代総監督の今西和男さんは、優秀な高校生を全国から集めてプロに育て上げていくことに力を入れました。そのために寮生活をさせ、選手は県立吉田高校に通いながら、プロを目指す練習をしていったんですね。これがやはりよかったと思いますね。昨年も、全国の多くのクラブが獲得に乗り出した、人気の中学3年生がいたんですよ。広島弁で言う「もぐれついた」選手ですね。本人と彼のご両親は、クラブの練習施設を全部見て回った中で、安芸高田市サッカー公園が一番いいと言って、私どものチームを選んでくれました。その理由は、サッカー漬けになるから、だそうです。要するに田舎だから他に浮気ができない、サッカーに徹することができるということですね。ローカルであるとか、人口減であるとかを逆手にとってみたらいいという典型のような気がしますよね。

市長 寮生活というお話も出ましたが、以前寮長や寮母さんがマスコミに取り上げられていたと思います。寮の方々と選手との関わりもすごく大事ですよね。

仙田 そうですね。去年、寮長・寮母になったのが、親子2代でされている方なんですよ。昔親父さんがやっていて、その息子さんが引き受けてくれて。これもやはり地域をあげて応援してもらっているクラブの特徴ですよね。

市長 スポーツ選手とは言え、競技ばかりやっていればいいというものではないですよね。高校生として、あるいは社会に向かう者として、何か指導しておられることはありますか。

仙田 ユースの高校生、それをまた目指すジュニアユースの中学生たちの前で、私が「よのなか科」という講義をすることもあるんです。いわゆる社会構造や経済環境について、またサンフレッチェの経営環境なんかをお話するわけですが、彼らは目をランランと輝かせて聞いてくれますし、コーチが出した想定問答に対しての論拠の説明も実に的確なんですね。これは平均以上だなと思いますね。

また、先ほど森岡さんのお話で大変面白かったのが、海外と日本の指導方針の違いですね。やはり日本人は、言われたことしかやらない、言われないと動けない。ところが、ヨーロッパのサッカーも南米のサッカーも自由自在に、個々の選手が判断して動いている、ここにスキッべ監督も不足を感じたんでしょうね。今は、とにかく和気あいあいと、楽しく好きに練習をやってみようという指導方針をとっています。サプライズだったのは、鹿島アントラーズ戦だったでしょうか。試合当日にこれまでとは違うフォーメーションで試合に臨むことを決断しました。試合当日ということもあり、選手は驚くわけですよ。それでも監督は、「いや、絶対勝てるからこれでやってみよう」と。そしてその試合に3対0で勝っちゃったりするんですからね。監督への信頼感が高まるし、さらに選手個々の自主性も生まれる、いい相乗効果ですよね。

市長 大変素晴らしい取り組みだと思います。

坂本さん、先ほどまずは楽しく走ってほしいというお話がありましたが、小さい子どもから高齢の方まで幅広く指導されている中で、気を付けておられることはありますか。

坂本 そうですね。皆さんやはり好きがゆえにたくさん走ってしまうんですね。特に子どもは、成長過程の中で膝やかかとが痛くなる場合も多いので、こちらがストップをかけて、今だけじゃなく、その先のことも見ないといけないという話をすることもあります。これは大人も一緒で、皆さん頑張り過ぎてしまうんですが、休むことも練習なんですよね。ケアの仕方を知らない人に対しては、ケアの仕方や状態に合った練習方法、楽に走れるポイントなどの提案もしています。それこそ考えさせるじゃないですが、できれば皆さんに考えてもらって、何かつまずいたときには、こちらが選択肢を提供する、そういう指導は心掛けていますね。

市長 中にはランクを上げたい子もいると思いますが、子どものレベルや状態に合わせて、指導方法を選んでおられるということですか。

坂本 これはマラソン競技の特性なのかもしれないですが、小・中学生のときから早かった子がそのままオリンピック選手になるようなことは、ほとんどないんですね。サッカーや野球などのスポーツでは、小さい頃から親から指導を受け、天才と言われていた子がプロで活躍していることが多いですよね。マラソンの場合は、走ろうと思えばいくらでも走れてしまう競技なので、全国でトップクラスのような子にガンガン走らせるような練習をさせた結果、気持ちがついていかなくなってしまうといった例をこれまでたくさん見てきました。逆に練習はさぼり気味だけど、試合にだけ出るような子も続かない。やはりマラソンはコツコツ積み重ねる競技なので、ランクを上げたい子も、今は我慢もしながら将来を見据えた練習をして、いずれは日本を代表するような選手になって欲しいという思いを伝えながら指導をしています。

市長 実は僕も陸上部だったんですが、1日練習を休むと、取り返すのに3日かかると言われて、毎日ハードな練習をしていました。当時はそうでしたが、今は逆に休養をどう上手く取るかが大事だと言われていますよね。

坂本 本当にそうで、トップ選手になればなるほど、オンとオフの切り替えが上手ですね。真面目にずっと練習をする人もすごいですが、やはり休養も大事です。どこかで気持ちを休める時間や場所がないと、しんどくなってしまうのかなと思います。

市長 坂本さんご自身のお話になりますが、天満屋時代の武富監督はどんな指導をされていたんですか。

坂本 本当に寡黙で、1から10までを言う監督ではなかったですね。先ほどの話にありましたが、私も監督から「自分で判断できる選手じゃないとだめだ」というのは常に言われていました。監督から「何キロでスパートかけて。」と言われて、その通り走れるものでもないので、体調と相手の状況を考えて自分で判断しないといけないですからね。私が日本初マラソン世界最高記録を出したときの話ですが、監督から「今の最高記録抜けるから。」と言われても、すごい記録だし、まさか自分が走れるとは思わないので、最初は信用できなかったんですね。でも、いざ走って記録を更新したときに、「監督の言うことを聞いておけば大丈夫なんだ、監督ってすごい」と思い、そこでまた信頼関係が生まれましたね。

仙田 それはすごく大事なことですよね。

坂本 練習メニューの変更希望など自分の意見を伝えると、監督なりの考えをフィードバックしてくれたので、きちんと言い合える関係というのはやはり大事だなと思います。

座談会の様子

地域との関わり

市長 皆さんはスポーツ教室などを通じて、地域との関わりも随分深められていると思います。

坂本さんは、これまでいろんな大会に関わってこられた中で、地域と競技の結びつきを感じられることはありますか。

坂本 府中市のまちなかリレーマラソンに参加させていただきましたが、小さい子から大人までが走っていて、ちょっとお祭り感のある大会でしたね。たくさんの人に応援にも出ていただきました。サッカーや野球は、大人と子どもでどうしても技術の差が生じてしまうと思いますが、走ることは意外と子どもが勝てる競技でもあるので、世代を超えて一緒に楽しめるスポーツだと感じていますね。

市長 声援は選手にあまり届いていないのかと思っていたんですが、意外に聞こえているみたいですね。

坂本 走っていても聞こえますし、意外と誰がいるかまで分かります。私が、沿道の声援のおかげで優勝できたと話しても信じていなかった市民ランナーの方たちも、実際に大会で走って、声援を送られる側になってみると、「声援でこんなに違うんだ。坂本さんが言っていたのは嘘じゃなかったんだね。」と驚いたように言われますね。

仙田 沿道からの声援は、絶対不可欠でしょうね。実は、天皇杯、ルヴァンカップともに、お客様の声援がものすごく後押しになったと選手が言っていましたね。やはり声援は必要です。私どももやっと声出しエリアというものを決めまして、マスク着用ですが、声を出して応援をしていただけるようになりました。

市長 森岡監督は、小さい子どもたちに教えに行くこともあるんですか。

森岡 今は小学校1・2年生の子に、ボールを使って「走る、飛ぶ、投げる、蹴る、つかむ、打つ」の6つの動きを教えています。JFA公認のキッズリーダーを取得している指導者や、将来そのような関係の仕事をしたい高校生も、一緒になってやってくれています。サッカーに限らずスポーツ全般の基本的な動きを覚えることで、ゆくゆく子どもたちがやりたいスポーツができたときの手助けとなればいいなと思っています。

市長 サンフレッチェは、サッカー教室を県内のみならず各地で開催されるなど、地域との関わりも大事にされていますよね。どんな思いでされているのですか。

仙田 やはり底辺が広がらないと、チームは強くならないと思うんですね。ただ広島県の課題は、強い選手が県外に流出していく傾向だということ。これは、若者言語で言うやばい状況ですよね。うちは確かにユースが充実していますが、他県の子も所属しています。地場の子を育成していかないと、クラブとしても人気が上がらないとは思いますね。

また、広島駅北口からすぐの場所にフットサルコートがオープンしましたが、新幹線を降りたら目の前がフットサルコートというのは、全国でも広島だけです。ぜひ今度ご覧になってください。そういうところでもサッカーの普及活動により力を入れていこうと思っております。もちろん、今度府中市さんに人工芝グラウンドができることは素晴らしいことなので、できるだけいろんなことで提携をさせていただきたいと思います。

市長 よろしくお願いします。いよいよ来年には新スタジアムが完成しますね。期待感や活用方法についてもお聞かせいただけますか。

仙田 ありがとうございます。新スタジアムについてですが、あれは広島市の施設ではないか、とよく言われたんですね。でも結局、寄せていただく寄付金も、民間企業の10億円目標が18億5000万円を超えたり、個人の3億円目標をクリアできたりと、世論の盛り上がりもありました。

サッカーの試合数は、男子だけだと20試合と、野球に比べて多くありません。そこで女子を立ち上げたんですね。女子はリーグ戦、カップ戦も含めると15試合くらいありますので、野球の半分強の試合ができるようになりました。また、サッカーだけでも人は来ていただけますが、この前小野市長にも来ていただいたファン感謝祭のようなイベントも開催していきます。その他にも、レストラン、ショップなども充実させていきますが、一番大事なのはミュージアムですね。広島サッカー王国の歴史をミュージアム機能で表現していくことが大事だと思っております。

少し話が堅くなって申し訳ないですが、広島は被爆という世界最大の悲劇を体験しています。平和公園を設計した丹下健三さんは、平和資料館、原爆死没者慰霊碑、原爆ドームを南北の一直線にとらえ、その延長線上に、実はサッカーのできる総合運動場を想定していたんです。昭和25年、被爆の5年後ですよ。これは、広島は戦前からサッカーが最強で、全国でも優勝を重ね、サッカーによって被爆から若者たちが立ち上がることができたということを表しているんですね。ミュージアムでは、この勇気の歴史を展示していきたいと思います。また、お客様には、平和公園や原爆ドームだけで終結することなく、スタジアムにもお越しいただき、この場所が復興を象徴する平和のシンボルであるということを知っていただくとともに、試合のある日には響きわたる歓声と拍手を、また試合のない日にも多くの楽しみを創造できる、そんな体験をぜひしていただきたいですね。スタジアムは、観客席から一番近いところで8メートルのところにピッチがありますので、迫力満点のプレーがご堪能いただけます。さらに、大型映像装置、デジタルを駆使した、これまでの日本のサッカースタジアムにないさまざまな演出が会場を盛り上げますので、ぜひご来場いただければと思います。

市長 今言われたように、さまざまな機能を持ったボールパークのようなスタジアムになると聞いております。サッカーの試合はもちろん、試合のない日でも皆さんが普段使いで楽しめる場所になると大変期待をしております。

仙田 天然芝の上ではなかなか難しいですが、例えばコンコースなどを使ってイベントなどもできるかと思いますので、ぜひ府中市さんもご活用ください。

仙田信吾さん2

地域総合型スポーツクラブ

市長 少し話がそれますが、今国の方で地域総合型スポーツクラブ、要するに学校外の外部コーチに少しずつ移行していこうという話がある中で、おそらく陸上も学校の部活動だけでなく、クラブ化していく方向にあるのかなと思います。今後、地域で支えるスポーツとの関わり方についてはどうお考えですか。

坂本 外部コーチについては、少し難しいと思います。やはり場所の問題がありますよね。送迎する親の負担もありますし、かといって私たちが全て回るのも不可能で。これからいろいろ模索しながらやっていかないといけないんだろうと思います。

市長 監督も同じように感じられますか。

森岡 練習に参加したいけど通えない子は多く、過去に何人もいました。個人的には、僕が迎えに行ってあげたいとも思いましたが、逆にそれがその子の負担になるんじゃないかとも。ただ、見放しちゃいけないし、できるだけ寄り添っていかなければと思います。今うちのチームには、三次から1時間かけて来ている子もいますし、来年は庄原から来る予定の子もいます。どんな環境でも絶対に成長できると信じているので、あまり悲観的にならず、一緒にできることを考えていくことがベストじゃないかなと思っています。

人工芝グラウンド、市民プール

市長 府中市では、いよいよ今年の4月に、上下町に人工芝グラウンドが完成し、また再来年には、府中駅南側に市民プールを作る計画を進めております。もちろん、これらの施設ができておしまいではなく、まちの賑わいの創出や市民の皆さんの健康増進などにもつなげていけるよう、皆さんのご意見を聞かせていただきながら取り組みを進めていきたいと思っております。

森岡監督が率いる「スフィーダ備後府中FC」の拠点となりますが、人工芝グラウンドを使ったチームの今後の展望をお聞かせいただけますか。

市長2

森岡 来年度は新たに、大学生4人、社会人選手1人を獲得予定で、3年後になでしこリーグ2部への昇格を目標に取り組んでいます。上下町の人工芝グラウンドには、ゴムチップではなく天然素材が使用されています。環境にも体にもやさしいグラウンドができるのはありがたいですね。もう一つの目標は、連携協定先である、なでしこ1部リーグのスフィーダ世田谷というチームに、うちで育った選手を送り出すこと、また送り出すばかりでなく、一度出ていった選手が府中へ戻ってきたときにプレーができる環境も作りたいと思っています。オーバー30、オーバー40などシニアの大会もあるので、戻ってきた選手たちには府中の代表、広島県の代表として活躍してほしいですし、サッカーのできるお母さん、スポーツのできるお母さんをどんどん増やしていきたいですね。

市長 森岡監督が指導をされている子どものお母さん方も、楽しくサッカーをされているというお話もお伺いしましたが。

森岡 フットサルという形ですが、お母さんたちがチームを作って、地元のローカル大会に出たりしています。もちろんサッカー未経験者もたくさんおられます。お母さんが子どもの前でリフティングを見せたり、オフサイドを教えたりできたらすごくかっこいいなあと思いますね。

坂本 サッカーができるお母さんはなかなかいないですよね。私もサッカーのことは本当に分からなくて。

森岡 お母さんが走り方の基本を教えられるのもすごいですけどね。うちの選手にも教えてもらいたいくらいです。

市長 坂本さんは陸上一筋ですか。

坂本 そうなんですよ。短距離の選手は割とスポーツ万能で、何をやらせても器用にこなす人が多いんですが、長距離は不器用の集まりだと思っていて。コツコツ走れば走るだけ成績が上がってくる競技ですからね。球技をさせると、てんやわんやになって、ボールがつながらないんです。

仙田 でも坂本さん、サッカーは全く分からないとおっしゃいましたが、例えば朝から10キロ歩けと言われても誰も歩けません。ところがそこにゴルフボールがあると歩けるんですよね。そこにサッカーボールがあると、坂本さんもきっとサッカーできますよ。

坂本 そうですね、何か楽しみがないと皆さん動かないですよね。動くのが楽しいと思えれば、そのうち目的がなくても動き出しますね。

市長 また市民プールについては、競泳選手を目指す人はもちろん、ジムを併設しますので、スポーツ選手から市民の皆さんまで、それぞれの目的にあった使い方をしていただきたいと思っております。

仙田 スポーツ選手には、ジムは必ず必要ですね。安芸高田市にもジムの施設が充実しているクラブハウスがあります。先ほどトレーナーの話もしましたが、30代後半になった選手が現役を続けられるのは、やはりフィジカルのケアができているからというのがありますね。

坂本 陸上選手はよくリカバリーとしてプールを使いますね。走った後に午後から水泳をしたり、けがをしたときにプールの中で少し負荷をかけて歩いたり。単純に心肺機能を維持させるために泳ぐこともあります。

今後に向けて

市長 正月ですので、最後に今年の抱負や今後の目標をお伺いします。

仙田 そうですね。Jリーグ100年構想と言いますが、Jリーグが誕生したときには、全国に芝のグラウンドを増やし、子どもたちがこけても倒れてもけがをしないようなスポーツ環境で、健全な育成ができることを理想としておりました。さらに、全都道府県にJリーグのチームを作るという目標がありましたが、これはほぼ行き渡りましたね。ただプロチームが多過ぎて、今60になろうとしております。野球は12球団で降格はありませんが、サッカーは60チームもあって降格もあるんですよね。私どもはJ1の中でも小規模クラブでありながら、生き残っていくために、さらなる強さを求めていかなければいけないと思っております。

もう一つ、新スタジアムをきっかけにして、客席をお客様で満杯にすることは悲願ですね。まちなかスタジアムですから、県下の皆さんのシンボルにしていきたいです。府中市から来られてもバスセンターから歩いてすぐですし、アクセスは随分良くなりました。今までご不便をお掛けしたものが一気に解消できるので、そういった部分では、私どもがお手本とする広島東洋カープに近づくことができるのではないかと思っております。

次は、健全な子どもの育成ですね。高齢化社会ではありますが、スポーツをしていた人はやはり免疫力も高まります。さらに、サッカーの楽しさや喜び、感動などを体感することによって、もう少し人生頑張ってみようかという意欲をかき立てさせることもできるかと思います。あるいは、子どもや孫の活躍を見て、家族みんなが一層元気になっていく、そのような理想を追い求めて、引き続き頑張っていきたいなと思っております。

地元に帰ってきたので少し弱音を吐きますが、経営は本当に大変です。しかし最近、大学のスポーツ学科やスポーツ経営学などが増えているのは、これから日本が生きていくのに、スポーツが一つの大きな眼目になっているということだと思うんですね。私どももサッカーを通して、いろいろ貢献をしていきたいと思っております。

坂本 指導した子どもたちには、日本代表として走ってもらいたいですね。また大人の方には、できるだけ長く安全に走ることを楽しんでほしいです。親子3代と言わず4代でマラソン大会に出れるなんて理想ですよね。走ることや見ることを楽しむ人が少しでも増えてくれるよう、お手伝いができたらいいなと思います。

森岡 チームは次のステージに向かって頑張っているところですが、応援してくれる人を増やし、選手たちには応援を受けて今以上に頑張ってほしいと思います。また、つくづく思うのは、スポーツをする子どもたちを増やしたいということですね。個々の家の事情やその子自身のモチベーションや能力、考え方などがあると思いますが、状況を理解し、子どもたち自身で判断ができる能力を身に付けることができるよう指導を続けていきたいです。そして、子どもたちの判断に大人が共感し、手を差し伸べてくれる環境であれば、可能性をさらに伸ばしていくことができると思います。指導する子どもたちが、地域で活躍している姿を見たいなと思います。

市長 ありがとうございました。

スポーツによって皆さんそれぞれ地域に根差した取り組みも積極的にされていることをお伺いしましたが、スポーツによって地域愛などが芽生えることもあり、改めてスポーツが持つ力はすごいなと感じているところです。

府中市としてもスポーツの持つ可能性をまちづくりに生かし、まちや市民の皆さんに元気になっていただけるような取り組みを進めていきたいと思いますので、また引き続き皆さんのご指導をお願いいたします。今日はありがとうございました。

花

座談会を終えて 市長 小野申人

今回の座談会は、府中市にゆかりの深い、スポーツの分野でご活躍のお三方にお集まりいただき、とても興味深いお話を聞くことができました。

スポーツというと競技そのものに注目が集まりがちですが、実はとても裾野の広い分野です。
1つ目は、多様な関わり方があること。競技をする、応援する、支えるなど多くの人がそこに参加する機会があります。
2つ目は、スポーツを通じて体力づくり・健康増進が期待できますし、人との出会い・つながりが生まれます。これらは生活の質を高めるためにとても大切な要素だと言われており、誰もが得られる恩恵です。市民の皆さんが、気軽にこうした機会を得るための環境づくりを進めてまいります。
そして3つ目は、ビジネスとしての側面です。地域づくりや地域経済の活性化においてスポーツは大きな可能性を秘めています。地元にチームができれば、選手が集まり、応援する人が集まり、地域が活性化します。活動の拠点として施設が整備され活用が進めば、その環境を求めて人が集まります。人が集う場所には飲食、宿泊、交通をはじめとするビジネスの芽が生まれます。交流を通じてさらにチャンスが拡大するかもしれません。

府中市が取り組む「スポーツを核としたまちづくり」にぜひご期待ください。

集合写真2

座談会は、恋しきにて開催しました。

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